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東京地方裁判所 平成6年(ワ)19971号 判決 1996年3月27日

原告

株式会社三和小松商事

被告

髙橋信雄

ほか一名

主文

一  被告らは、連帯して、原告に対し、八九万九八〇〇円及びこれに対する平成五年一〇月八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告その余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれを八分し、その一を被告らの、その余を原告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは、連帯して、原告に対し、六九四万八七〇〇円及びこれに対する平成五年一〇月八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  争いのない事実等

1  事故の発生

(一) 日時 平成五年一〇月八日午前八時五分ころ

(二) 場所 東京都足立区青井五丁目八番八号先路上

(三) 加害車 被告髙橋信雄(以下「被告髙橋」という。)が運転していた大型特殊自動車

(四) 被害車 蓮沼芳夫(以下「蓮沼」という。)が運転する、原告所有(証人長橋俊一の証言、弁論の全趣旨)の普通貨物自動車

(五) 事故態様 前記道路(以下「本件道路」という。)の中央寄りの車線(以下「第二車線」という。)上において、加害車のクレーンの先端部分が、同車の前方に停車した状態にあつた被害車の後部のタンクに衝突した(以下「本件事故」という。)

2  本件事故の結果

本件事故により、被害車が修理を要する損傷を被つたほか、原告は、修理のために被害車を営業に使用し得ず、また、被害車が事故当時積載していたセメントが使用不能となつたためそれを廃棄物として処分するのに費用を出捐せざるを得なかつた。

3  被告らの関係

被告高橋は、杉本興業株式会社(以下「被告会社」という。)の従業員であり、本件事故当時、被告会社の業務として加害車を運転していた。

三  争点

1  本件事故の態様(被告髙橋及び蓮沼の運転上の過失責任)

(一) 原告の主張

本件事故は、被告髙橋が前方注視義務を懈怠したため、停車中の被害車に追突したことに起因するものである。

(二) 被告らの主張

本件事故は、被害車が、前記道路の歩道寄りの車線(以下「第一車線」という。)から第二車線上を走行していた加害車の前に突然進路変更し、かつ急停車したため、後方の加害車の急制動措置が間に合わず、追突したことによつて発生したものであるから、被告髙橋には前方不注視の過失ない。

2  原告の損害

(一) 修理費用 三二九万六〇〇〇円

加害車は、本件事故により、前記修理費を要する損傷を被つた。

(二) 積載セメント処理代 三〇万三二〇〇円

本件事故時に積載していたセメントが使用不能となり、廃棄物として処理する上で前記金額の費用を要した。

(三) 休車損害 二七四万九五〇〇円

(1) 原告の主張

ア 加害車は、本件事故前に一日七万〇五〇〇円の利益をあげていたところ、本件事故によつて三九日間稼働できなかつた。したがつて、原告は前記金額に相当する損害を被つた。

イ 原告は、本件事故によつて加害車を使用できなかつたために、戸田商事扱いの取引を失つたばかりでなく、自社の車両では賄い切れないことから第三車の運送手段を調達せざるを得なかつたために、平成五年一〇月から一二月までの間、宇部貿易手数料を控除した利益率が通常時期の平均二一パーセントより低い数値(平成五年一〇月が一九・二八、一一月が一八・六二、一二月が一九・四五)とならざるを得なかつた。

したがつて、前項のように計算することを主位的に主張し、予備的には、利益率低下による三か月の損失金一五八万四五〇三円と戸田商事の月額平均売上額五七万五九五〇円の三月分(一七二万七八五〇円)の利益率二一パーセントである三六万二八四八円の合計一九四万七三五一円を主張する。

(2) 被告らの主張

被害車が休車状態であつても、他の車両で稼働率を上げる等の方法によつて補つたのであれば、損害はないはずであり、仮に損害があつたとしても、他の車両の運転手を稼働させることによつて発生した経費増加分や断らざるを得なかつた取引先の注文内容、代金、仕入代金等を明らかにすべきであるのに、何ら明確になつていない。また、一般の月の利益率が二一パーセントを下回らないこと、事故の影響が平成五年一二月まで及んだことについても、何ら明確な根拠がない。

第二争点に対する判断

一  本件事故の態様及び事故当事者の過失責任

前記争いのない事実、甲一、一一、一二の1ないし4、一三、乙一ないし五、証人蓮沼芳夫(以下「蓮沼」という。)の証言、被告髙橋信雄(以下「被告髙橋」という。)本人尋問の結果、弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

1  本件事故現場付近の状況

(一) 本件事故現場は、片側二車線の環状七号線内回り(以下「本件道路」という。)の中央寄りの第二車線上であり、別紙図面上の西加平交差点(丸で囲んだ「西加平」の文字の記載のある交差点。以下「本件1交差点という。)を過ぎ、西加平のバス停留所(以下「本件停留所」という。)の手前付近であり、本件1交差点を出てから約五〇ないし六〇メートル離れた付近である。本件停留所付近は、バスが同停留所に停車した際、本件道路の歩道寄りの第一車線を走行する車両を妨げないように、本件道路の幅員が歩道側に凸形にやや拡張されている。

本件道路の本件1交差点に入る手前約一五メートル付近には本件道路を横断する横断道路が設置されており(進行方向左側には歯科医の建物がある。甲一三の写真<17>、本件道路を走行して本件1交差点を通過しようとする車両が同交差点の赤信号で停止する場合には、同横断歩道手前の停止線で停止することになる。同停止線の約四二五メートル手前には綾瀬川を渡る西加平橋の中央付近が、同停止線の約五九〇メートル手前には加平二丁目交差点(別紙図面の加平一丁目三番先の信号マークのあるある交差点。以下、「本件2交差点」という。)が、同交差点に入る手前約三〇〇メートルには綾瀬警察署交差点(以下「本件3交差点」という。)がある。

(二) 本件1、2の各交差点に設置された信号機の表示サイクルは、交通の円滑な流れを確保するために、信号制御計画による制御がなされて相互に連関しており、本件事故当時も同様であつたと認められるが、本件事故当時における右交差点の信号表示が具体的にどのような関係をもつて表示されていたかは不明である。(甲一二の1、2の記載に係る信号サイクルは標準的な基準であるが、本件事故時が朝の通勤時間帯であるため、その標準的な信号サイクルがそのまま適用されたか否かは確定し得ず、本件事故当時における信号サイクルが標準的なそれと一致するとは直ちに認められない。)。

(三) 本件道路は平坦な道のりであるが、本件2交差点を通過した付近から西加平橋の中央付近に向つて緩やかな上り坂となつており、橋の中央付近を越えた当たりから、高速六号線三郷線と本件道路とを連絡する道路との交差点付近まで緩やかに下つていく状態となつている。

2  被害車の運転車である蓮沼の証言内容

蓮沼が認識する本件事故前後の状況は以下のとおりである。

(一) 本件事故当時、蓮沼は、早朝千葉県市原市でバラセメントを積載し、埼玉県草加市の首都圏コンクリート株式会社に運搬するために本件道路の第一車線上を走行していた。そして、本件3交差点付近で第二車線を走行する加害車に気がついた。その際の両車両の速度は四〇ないし五〇キロメートルであつたが、西加平橋に差しかかる緩やかな上り坂になると加害車は大型クレーン車で重量があつたために遅れ、被害車は西加平橋の手前で加害車を追い越した。橋を越えて下り坂を走行していると、本件1交差点手前で路線バスがあり、その後ろで車両が詰まつている様子が見えたので、被害車は第二車線に車線変更した。その際の被害車の速度は時速約五〇キロメートル、加害車は未だ上り坂頂上の手前で車両の上だけが見える状態で後方約一〇〇メートルの位置にあつた。また、第二車線上の車両状況は、加害車の前は本件1交差点まで空いていた状態であつた。

(二) 被害車が第二車線上を走行していたところ、本件停留所付近で路線バスが停留所に頭を突つ込んで第一車線を塞ぐように停車しており、後続車両が第二車線に車線変更してすり抜けるのが見えたので、本件1交差点に入る少し手前で時速約三〇キロメートルに落として走行を続けた。

その際の加害車の位置について、蓮沼は、加害車と被害車の速度の違いから、被害車が車線変更した際の後方約一〇〇メートルよりももつと離れていると認識している。

(三) 蓮沼は、本件交差点で停止することなく、そのまま速度を落としながら走行していたところ、第一車線上の前方を走行していた軽四輪自動車(以下、単に「軽四輪」という。)が、第二車線に車線変更してきたので急停止したところ、後方から加害車に追突された。

(四) 事故後、蓮沼は事故当時車両をそのままにした状態で警察に電話連絡するために現場を離れた。連絡が終わつた後現場に戻り、各車両を本件道路左側に寄せて警察官が来るのを待つていたところ、警察官が自転車で本件事故現場にやつて来て各車両の状況を見聞した。そして、近くの交番で事情聴取を受けることになつた。

警察官は、本件事故について、追突事故であるが、物損処理をしておくから話し合いなさいと蓮沼、被告髙橋に述べた。

3  被告髙橋の供述内容

被告髙橋が認識する本件事故前後の状況は以下のとおりである。

(一) 被告髙橋は、本件事故当時、加害車の車庫から加害車を運転して工事現場に向かう途中であつた。加害車は、本件道路と本件2交差点で交差する道路の北方向から本件2交差点を右折して本件道路に進入し、本件道路を直進走行して、本件1交差点からさらに先の青井五丁目交差点で右折していく予定であつた。

(二) 加害車は、本件2交差点を右折して本件道路に進入して第二車線を走行した。穏やかな上り坂であつたため、加害車の速度は時速約一〇キロメートル程度であり、西加平橋を越えて下り坂になつたところで時速約三〇キロメートルかそれを少し越える程度の速度で走行していたが、本件1交差点での対面信号が赤色であつたので止まる態勢になつた。本件1交差点手前で四、五台の普通車の後ろに停車した。その際、第一車線の前方には路線バスが停車しており、その後ろに普通車が一、二台停車していた。

(三) 対面信号が青色になつて加害車は発進したものの出足が遅かつたこと、第一車線上の前記バス本件停留所の前で停止信号を発したことから、第一車線を走行する何台かの後続車両は次々と加害車の左を通過し、第二者線に車線変更して加害車を追い越していつた。

被害車は、第一車線上を走行して加害車の左を通過し、突然第二車線に車線変更してきたため、被告髙橋は、加害車のクレーンと衝突する危険を感じ、急ブレーキをかけながらハンドル操作によつてクレーンの先端部分による衝突の回避を試みたが、被害車が急停止したために追突するに至つた。

(四) 衝突後、被告髙橋は車両を移動させようとしたが、蓮沼が電話をかけるために姿が見えなかつたため、同人が戻つてきてから車両を移動させた。その後、被告髙橋は、工事現場での仕事があつたので電話連絡するために現場を離れ、戻ってきてから蓮沼とともに交番に赴いた。警察官からは追突事故だから物損処理をしておくと言われ、被告髙橋は、警察官に事故当事車両を見てもらおうとしたが、見てもらえなかつた。

4  事故当事者の事故の認識内容の検討

(一) 蓮沼の認識内容について

原告は、本件道路の第二車線上に停止していた被害車に加害車が追突したものであり、本件事故が被告髙橋の一方的な過失に起因するものである旨主張し、蓮沼は、これに沿つた証言(甲一一の陳述書の内容も含む。)をする。

しかしながら、蓮沼の認識に係る事故状況についは、以下の問題点がある。すなわち、<1>蓮沼は加害車を本件3交差点で発見した旨証言するが、加害車は同交差点付近を走行しておらず、本件2交差点を右折して初めて本件道路上を走行するに至つている事実(乙二ないし四)と矛盾すること、<2>加害車と被害車の距離関係について、蓮沼は、被害車が西加平橋の下り坂で時速約五〇キロメートルで第二車線に車線変更した際、加害車は約一〇〇メートル程度後方で未だ西加平橋を上つている状態であつたこと、本件1交差点に入る前に被害車の速度を約三キロメートルに落としたが、そのときの加害車は一〇〇メートルよりももつと後方にいたと考えられること(蓮沼は加害車、被害車の走行状態から合理的に推測したと考えられる。)をそれぞれ証言するが、かかる距離関係を前提にすると、本件事故が発生するためには、被害車が本件1交差点から本件事故現場付近までの距離(約五〇ないし六〇メートル)を走行する間に、加害車が、時速約三〇キロメートルで走行する被害車のすぐ後ろに追いつかなければならないが、このようなことは、加害車の走行状況や重量からして到底困難であると考えられること、<3>蓮沼は、本件道路第一車線上を路線バスが走行してその後ろに普通車が詰まつた状況にあることを視認して第二車線に車線変更したこと、本件1交差点を通過した路線バスが本件停留所で停車しようとするのを見て後続車両が第二車線に車線変更して走行していつたことをそれぞれ証言するが、そうだとすれば、第二車線上を走行する加害車と被害車との間には、かなりの距離があるのだから、第一車線を走行する他の車両が第二車線に変更する可能性が高いと考えられること(加害車と被害車との間に第三者の車両があれば、本件のような追突事故は発生し得ない。)が指摘されるのであり、以上によれば、蓮沼の証言は、直ちに信用できるものとして採用することはできない。

(二) 被告髙橋の認識内容について

これに対して、被告髙橋の認識に係る事故態様は、本件事故直前に被害車が第二車線を走行する加害車の前に車線変更した際、これとの衝突を回避するためにハンドル操作のみを行つたのか、ブレーキ操作も併せた回避措置をとつたのかについて、乙一(陳述書)と本人尋問の結果との間に若干の齟齬があるものの、基本的な事故発生に至る流れについては、整合性があり、信用することができる(前記齟齬の点は、これを覆す程度のものとはいえない。)。

もつとも、被告髙橋の認識に係る前記事故状況について、原告は以下の点を疑問点として指摘している。すなわち、<1>被告髙橋は、被害車が加害車を高速で追越して第一車線から第二車線に車線変更したとするが、被害車も加害車と同様大型で荷重の大きな車両である以上、停止するまでに走つたとされる二〇メートル程度では到底被害車は停止し得ないこと、<2>被害車が割り込んだときにハンドル操作又は急制動をかけていたのであれば、被害車が停車する以前に加害車が停車し、本件追突事故は発生し得ないこと、<3>本件事故後、警察官は実況見分しており、被告髙橋の供述はこれに反すること、<4>原告及び蓮沼はこれまでに被告らから損害賠償請求を受けていないこと、<5>本件1、2交差点の信号サイクルからすると、被告髙橋の認識のような、本件1交差点手前で停止することはあり得ないことの五点である。

しかしながら、<1>については、被告髙橋は、被害車が高速で第二車線に車線変更したことは供述(乙一の陳述書の内容も含む。)しておらず、単に、急に車線変更したとのみ供述しており、また、加害車が本件1交差点で発進し間もない状況であれば、被害車は原告主張に係る前記の高速度を出さなくても容易に追越して第二車線上に車線変更することはできたと考えられるから、<1>の指摘はその前提において妥当しない。<2>については、被害車が車線変更したとき、被告髙橋は主としてハンドル操作をもつて衝突を回避しようとしていたことが認められ、その際急制動措置をとつたとしてもブレーキの踏み方が甘かつたとも、また、加害車の重量ゆえにブレーキが十分に機能しなかつたとも考えられるのであるから、加害車が被害車よりも先に停止するとの指摘は直ちに合理的な根拠のあるものとしては首肯し難い。また、<3>については、たしかに、警察官は本件事故現場において実況見分を実施していることが認められるものの(甲一二の3、4)、自転車に乗った警察官が僅かな時間だけ本件事故現場に滞留し、その後交番で事故当事者から事情聴取した経過からすると、警察官が現場で実況見分した際、立ち会つたのは蓮沼のみであり、被告髙橋は工事現場に電話連絡をとるために不在であつたと考えられるから、被告髙橋が虚偽の供述をしたとはいえないこと、<4>については、被告らが原告及び蓮沼に対して損害賠償請求権を行使するか否かは、本来権利者たる被告らの自由であつて同権利を行使しないことをもつて、直ちに、被告らが原告の無責を認めたと考えることは失当であること(権利行使しないことをもつて、自らの全責任を認めたと判断する、原告の考え方は必ずしも正しいとはいえない。)、<5>については、前記認定のとおり、原告主張に係る本件1、2交差点の信号サイクルが本件事故時においても妥当すると認めるに足りる証拠はなく、かえつて、乙六によれば、本件2交差点を右折して本件道路に進入した加害車が本件1交差点手前で停止することがあり得ることがそれぞれ認められるのであり、原告の前記各指摘は、いずれも被告髙橋の供述を覆すには足りないというべきである。

5  本件事故の態様と蓮沼及び被告髙橋の責任

以上の事実によれば、本件事故は、本件1交差点を通過した際、第二車線を走行する加害車の直前に、被害車が車線変更し、かつ急停止したために、加害車が被害車と衝突するに至つたものと考えるのが合理的であり、原告の主張に係る事故態様は採用できない。

もつとも、前記認定に係る事故態様を前提としても、被告髙橋は、前方の第一車線における路線バスの停車状況と第一車線から第二車線に車線変更しようとする車両の動きを視認していたのだから、予め相当程度に減速して走行し、第一車線上を走行する車両の動き次第では、荷重の大きな加害車であつても機敏に適切な対応をなし得るように安全運転を行うべきであつたにもかかわらず、これを十分に行わなかつた点について過失が認められる。しかしながら、本件事故は、蓮沼が、第二車線の車両状況を注視して、同車線の車両の走行を妨げないように安全に車線変更すべきであるのにこれを怠つた運転上の過失に主として起因しているといわざるを得ず、原告の損害賠償請求については、相当程度の過失相殺は免れないところ、前記事故態様を勘案すると、蓮沼と被告髙橋の過失割合は、それぞれ蓮沼が七五、被告髙橋が二五とするのが相当である。

二  原告の損害

1  修理費用 三二九万六〇〇〇円

甲二により認められる。

2  積載セメント処理代 三〇万三二〇〇円

甲一〇により認められる。

3  休車損 認めない

(一) 甲一四、一五、証人長橋俊一の証言、弁論の全趣旨によれば、被害車はバルブ車という特殊な車両であり、原告が保有する六台のうちの一台であること、原告は常時その六台を稼働させる配車を組んでいたこと、原告は本件事故によつて被害車を使用できなかつたが、残る五台の車両をやり繰りして営業を継続し、そのために原告社員らが相当な努力を払つたこと、しかしながら、稼働能力の限界から戸田商事からの取引を断らざるを得ず、それによつて失つた売上額は、事故前の平成五年七月から九月までの三か月平均で一月五七万五九五〇円であること、もつとも、原告の売上額は本件事故前と事故後とを比較して下落した状況にはないこと(かえつて増加している。)、原告の努力としては、例えば運行回数一回のところを二回とする等であつたこと、経費の増加分が反映すると思われる、宇部貿易手数料を控除した利益率は、平成五年七月以降の各月で、七月が二八・三二パーセント、八月が二三・三七パーセント、九月が二一・二三パーセント、一〇月が一九・二八パーセント、一一月が一八・六二パーセント、一二月が一九・四五パーセント、平成六年一月が二一・二三パーセント、同年二月が二一・〇九パーセントであることが認められる。

(二) 以上の事実によれば、原告は被害車を使用し得なかつたが、保有する他の五台の同種車両を駆使することによつて被害車の稼働部分を補い、もつて本件事故前と同水準又はそれ以上の売上額を確保したことが認められるから、被害車が本件事故前に一日当たりに獲得していた利益額に使用不能日数を乗じた計算方法で休車損を算定することは、被害車が本来挙げるべき利益額を他の五台の同種車両が稼いでいる実情に鑑みると、原告が二重に利得する結果となるから、直ちに採用することはできない。

また、本件事故前後の宇部貿易手数料を控除した利益率の動向を見ると、本件事故前の平成五年七月から九月までに利益率が大幅に減少していること、本件事故による修理を終えて被害車が使用に供されたと認められる平成五年一一月一六日(甲二によれば、修理は平成五年一〇月八日着手され、一一月一〇日に完了しているが、弁論の全趣旨からすると、実際に使用し得るようになつたのは、四〇日後の前記月日からと推認される。)以降である平成五年一二月には、被害車の使用可能の状態であつたにもかかわらず、同月の利益率は、被害車を使用できなかつた一〇月、一一月のそれに比べてさほど差がないこと、二四日間使用できなかつた一〇月の利益率が一〇日間使用できなかつた一一月の利益率よりも高いこと、平成六年二月の利益率が前月よりも低下していることが認められるのであつて、以上の事実によれば、被害車が使用できなかつたことと、平成五年一〇月から一二月までの前記利益率が原告主張に係る二一パーセントを下回つたこととの間に、相当因果関係を認めるに足りる証拠はないといわなければならない。

(三) 原告は、被害車を使用できなかつたことによつて、他の五台の同種車両を駆使する等の努力を行つたのであり、原告の休車損は、このような特別の努力を行うことによつて費消した経費相当分(被害車を従前通り使用していれば費消せずに済んだ経費相当分)となるべきところ、未だこれを合理的に特定して算定するに足りる証拠はなく、原告が被害車を使用できなかつたことによつて被つた休車損を認めることはできない。

4  合計 三五九万九二〇〇円

以上を合計すると、前記金額となる。

5  過失相殺後の金額 八九万九八〇〇円

前記認定に係る七五パーセントの過失相殺をすると、前記金額となる。

三  結論

よつて、原告の請求は、八九万九八〇〇円の限度で理由がある。

(裁判官 渡邉和義)

別紙図面 略

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